まさか、2018年最初に読み終えた本がこれになるとは思いもよらなかった。
こちら2015年に出版された住野よるのデビュー作である。
僕自身はもともと、小説の中でももっと暗くてひねくれたやつを好んで読む傾向があります。具体的に何とかはないけど。
そんな僕の好みとは対極に位置する眩しすぎるほどの本書。
話題になったときから本の存在は認知していたけど、どうせ、少女漫画みたいな展開のありふれた余命青春系ラブストーリーだろ、決めつけてかかりどこかで敬遠していた。
そんな中、たまたま会社の先輩からこの本を借りる機会があって、せっかくなので読んでみたというわけ。
まあ、読後の最初の感想としては、「なんだこのありふれた余命青春系ラブストーリーは、、、、」
いえ、別に非難しているわけではない。
ただ、よくある展開の中でも心が温まるというか、いや澄んだ心を持つのは素晴らしいなと。
正直、何番煎じかわからないほどのありがちな恋愛ラブストーリーだとは思う。
それでも、本書ならではの感動と感心する展開があったのは事実。
斜に構えず、純粋な心で読み進めていくと、ちょっと切なく、ほっこりした気持ちになれて心地よい読後感が得られる。そんなこんなでざっと思うことを書いた。
あらすじ
ある日、高校生の僕は病院で一冊の文庫本を拾う。タイトルは「共病文庫」。それはクラスメイトである山内桜良が綴っていた、秘密の日記帳だった。そこには、彼女の余命が膵臓の病気により、もういくばくもないと書かれていて――。 本書引用
冒頭一行目から「クラスメイトであった山内桜良の葬儀は~」といきなりヒロインの死が確定して物語はスタートする。
病気の秘密を知ってしまったことで、人との関わりを避けてきた内向的な僕と、明るく天真爛漫でクラスの中心的な存在の桜良が、接点を持ちお互いに心を通わせていく形で物語は進んでいく。
「君の膵臓をたべたい」の意味について
冒頭に「昔の人はどこか悪いところがあると、ほか他の動物のその部分を食べた」「そうしたら病気が治るって信じられていたらしいよ」と説明がなされている。
ここでタイトルの意味を明かしたかと思いきや、最後にお互いのことを君の爪の煎じて飲みたいとの表現を改めて、君の膵臓がたべたいと送り合う。
正反対な二人だと認めながらもお互いに自分の欠けている部分を持っているそれぞれに憧れていたという共通の気持ちを示しあい終わる。
つまり君のようになりたかったということを二人にしか伝わらない方法で表現している。
一見すると、猟奇的な言葉をお互いを尊重しあっている意味に変換して捉えることができるようにした点は素晴らしいと思った。
また恋愛小説とは思わせないギャップのある斬新なタイトルにしたのも惹きつけられる一因かと。
印象的な桜良のセリフ
「私たちは皆、自分で選んでここに来たの。偶然じゃない。運命なんかでもない。君が今まで選んできた選択と、私が今までしてきた選択が私たちを会わせたの。私たちは自分の意思で出会ったんだよ」 本書引用
偶然、運命ではなく、自分の意思で選択してきた結果。
そんな考え方は自分の現状を自分の力で引き寄せることもできるという意味が込められていると思った。
主体性を持った行動するものにとって自信に繋がる勇気づけられる一節でないかと思い感銘を受けた。
また、名前の由来の話題になったときの主人公のセリフで
春を選んで咲く花の名前、は出会いや出来事を偶然じゃなく選択と考えてる、君の名前にぴったりだって思ったんだ。 本書引用
と言った返しも秀逸でうまいなと。んで、 共病文庫の中での
17年、私は君に必要とされてるのを待っていたかもしれない。桜が春をまっているみたいに。 本書引用
と記されているところにリンクしている点も素晴らしい。
ラストシーンの解釈
もう、怖いと思わなかった。で締めくくられるラスト。
共病文庫の中の桜良の推測として、
僕が桜良の名前を呼ばない理由について、
「いずれ失うってわかっている私を「友達」や「恋人」にするのは怖かったのではいないか?
当たっていたら、墓前に梅酒でも置いといて(笑)」
とある。
そして、その後の恭子との墓参りのシーンで
「お供え物はその時に買ったお土産なんだ。学問の神様がいた場所にできた梅で作られてたものだ。」
とあるため、桜良の推測は的中していたと考えて間違いないでしょう。
主人公は人と関わりから逃げることがなくなったということだと思う。
まとめ
ちょっと鼻につく会話のやり取りもあるが、比較的読みやすく、素直に感動できる作品だと思った。その感動は普遍的な恋愛小説のようなお互いの気持ちが通い合うことによる感動と主人公の人間的な成長に対しての感動の二面性が味わえる。
おしまい
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